ある日突然、開発部の部長から一言。
「我が社の開発部で、新製品が試作されてさー。これがまたいいんだよね!」
「来月にも製造始めて、すぐ販売するんだけど、大丈夫だよね」
「あ、そーっすか。いいじゃないですかー。」
イヤイヤ!
そんな簡単なことじゃないんですよ(笑)
こんなゆる~い状況は知的財産テキに、危険です。
製品を製造・販売するときには、必ず、他社の権利を確認する必要があります!
実際に、特許権者から侵害訴訟を提起されると、製造・販売の差し止め、
設備の除却、損害賠償など、会社に多大な損害を及ぼすことになってしまいます。
そうならないためにも、侵害調査のイロハについて知っておきましょう!
ちなみに「侵害調査」は、他にも「クリアランス調査」「他社権利調査」
「侵害可能性調査」と、いろいろな呼び方があります。
そこんとこ、覚えておいてくださいね。
目次
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とりあえず「新製品」を簡単な文章にしてみる
開発部の人に、
「新製品ってっどんな感じですか?」
なんて聞いたら、ほぼ100%、
「これですよ。」
と言われて、新製品を目の前に出されて、おしまいですよね(笑)。
でもこれから行う侵害調査は、
他社の特許の請求項の文章を読んで判断することになるので、
当然のことながら『文章化』しておく必要があります。
つまり、『文章vs文章』の構図にして調査や判断を行うことになります。
これはもちろん、訴訟段階などでも行われる基本中の基本。
ですから、『文章化』することに集中すべきです!
まずは簡単な文章で新製品を表現してみましょう。
簡単な箇条書き(構成の列挙)にしてみる
次に開発部の人に、具体的な「構成」を聞いてみましょう。
もちろん「構成」は複数挙げられるでしょう。
その際に聞き出すポイントは2種類です。
一つ目は、その製品の「従来構成」で、
二つ目は、開発された新製品の「新規構成」です。
この「従来構成」と「新規構成」について、
箇条書きの文章を作成してみましょう。
【例】~自動車のフロントガラスにおける走行案内表示~
従来構成:『運転中の自動車の情報を表示可能なフロントガラスであって、』
新規構成:『走行案内を表示可能とする表示領域を設けた構成。』
※ここから先は、この【例】についての『調査内容』を参考に説明していきます。
この「構成」の文章化により、調査すべき内容が明確になりました!
《特許分類》を探す
当然のことですが、【例】として文章化した「構成」に基づいて、
我が社は「新製品」を製造・販売するので、この「構成」と同じ製品が、
他社の特許として存在するか否か、調査する必要があります。
そして、ここで重宝するのが《特許分類》です。
国内で発行された《特許公報》(※公開公報含む)は、
例外なく《特許分類》が付与されています。
そのため、上記「構成」に相当する《特許分類》を探し、
見つけた《特許分類》が付与された《特許公報》を目視調査することで、
他社の特許の存在有無を確認することができます。
先の【例】の場合、
従来構成『表示可能フロントガラス』および新規構成『走行案内表示』の内容に合う
《特許分類》を探すことになります。
一般的には、[特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)]で探すのがいいでしょう。
⇒https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
そしてJ-PlatPatで『調査内容』に合う《特許分類》を探すと、次の分類(FI)が見つかります。
・B60J1/02@M(ヘッドアップディスプレイと関連する構成)
・B60R16/02,640@J(走行案内装置,すなわちナビゲーションシステム)
※ここに示す分類は、説明の便宜上、あくまで一例です。
⇒[特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)]の使い方はコチラ
⇒《特許分類》の詳細な説明はコチラ
《検索式》を作る
「さあ、キーワードを使って演算式を作ろう!」と、
思うのは、ごくごく普通のこと。
しかし!侵害調査の場合は、この「キーワード演算」に注意が必要です!
例えば「走行案内」の類義語には、ナビゲーション、ルート表示、方向指示など、
イロイロな表現方法があるため、安易なキーワード演算は、
原則として避けるべきです。
このためできる限り、上記した《特許分類》に基づく検索を行い、
そこでヒットした《特許公報》を目視確認していくのが一番安全です。
ちなみに、
「《特許分類》だけで検索した件数って、もの凄く多いんじゃないか!」
「そんなに沢山読むことなんてできない。」
と、思われがちですが、そこはある程度解決方法があります。
特許権の存続期間は、日本においては「出願日から20年」と規定されており、
さらに、拒絶査定の確定、無効審決の確定、年金未納、放棄など、
特許権にならないケースや、特許権になっても権利消滅となっているケースも多いです。
このため、特許検索の際に、
いわゆる「生きている特許」に限定する検索を追加で実施することが必要です。
なお、「生きている特許」や「死んでいる特許」の検索コマンドは、
国内で使用可能な検索システムであれば、通常備えている機能なので、
各検索システムのマニュアル等を参照して、実行して頂くと良いです!
私の個人的な経験上、この「生きている特許」に限定することで、
当初の母集団に対しておおよそ1~3割程度まで減少することが一般的です。
侵害調査における《特許公報》の目視作業とは?
単純に、闇雲に、
「《特許公報》を目視調査するぞ!」
って頑張っても、大変ですよね。
なので、《特許公報》の目視箇所を特定しておき、
その部分を徹底的に確認していくことが大事です。
侵害調査は、調査の目的の通り「他社権利の確認」が最重要任務です。
このため先ずは《請求の範囲》を確認していきましょう!
そして特に《独立請求項》の内容を真っ先に確認すべきです。
なお、《特許公報》が「公開系の公報」である場合には、
今後、補正手続きが行われる可能性があるため、
時間に余裕があれば、《従属請求項》も確認していくことがベストです。
《特許公報》目視の判断基準は?
ココは大変重要な話になります。
※以下に示す内容は、判断の一例ですので、あくまでご参考になさってください。
まずは我が社の「新製品」ですが、以下の構成でした。
【例】~自動車のフロントガラスにおける走行案内表示~
従来構成:『運転中の自動車の情報を表示可能なフロントガラスであって、』
新規構成:『走行案内を表示可能とする表示領域を設けた構成。』
以下、我が社の「新製品」における「従来構成」と「新規構成」を含めて、
【イ号製品】と記載させて頂きます。
★『直ちに注意が必要』なケースA
他社の《特許公報》の《独立請求項》において、
【イ号製品】と全く同じ構成が記載されている場合。
例えば《独立請求項》にて、
「運転中の自動車の情報を表示可能なフロントガラスであって、
走行案内を表示可能とする表示領域を設けた構成。」
と記載されていれば、全く同じ構成なので、
知的財産上、大変危険な特許であると言えます。
また、《独立請求項》にて、
「走行中の乗用車の情報を表示可能なフロント部であって、
ルート案内を表示可能とする表示領域を設けた構成。」
であっても、各用語の表現は相違するものの、
明細書等の記載内容を根拠に「同等」と判断できれば、
同じ状況と判断できます。
さらに、極端な侵害理論になってしまいますが、
もし仮に、《独立請求項》の記載が以下のパターンである場合も、
侵害成立となる可能性が極めて高いです。
他社特許:パターン1
「運転中の自動車の情報を表示可能なフロントガラス。」
他社特許:パターン2
「車内に、走行案内を表示可能とする表示領域を設けた構成。」
上記のいずれのパターンであっても、
我が社の【イ号製品】は、技術的に全て包含される関係になるため、
このような記載の特許も、調査過程で見つけ次第、
抽出する必要があります!
しかしながら、例えば「運転中の自動車の情報を表示可能なフロントガラス」の
ように、たった1行で特許登録となる可能性は低いため、
このような特許に遭遇する可能性は極めて低いです。
大事なのは、『技術事項の包含関係』です!
自社製品の【イ号製品】が、他社特許の権利範囲に『包含されている』か否か、
細心の注意を払って、スクリーニングを実施してください!
場合によって見落とす可能性があります!
例えば、調査員が「フロントガラスに表示」との意識を強く持ちすぎると、
パターン2の「車内に、走行案内を表示可能とする表示領域を設けた構成」を
見落とす可能性が十分にあります。
これには注意が必要です。
★『詳細な構成の確認が必要』なケースB
他社の《特許公報》の《独立請求項》において、
【イ号製品】と同じ構成が記載され、かつ、その他の構成を含む場合。
例えば《独立請求項》にて、
「運転中の自動車の情報を表示可能なフロントガラスであって、
走行案内を表示可能とする表示領域を設け、
当該表示領域を拡大または縮小する機能を有する構成。」
と記載されていたら、最後の構成、つまり、
『当該表示領域を拡大または縮小する機能』について、
我が社でも、実際の実施形態として含めているのか否か、
確認する必要があります。
開発部の方が、「ああ、拡大・縮小の機能くらい付けますよ。」
なんて言ったら、大変です!
この特許は、『直ちに注意が必要』な特許になってしまいます。
侵害調査では、この『パターンA』および『パターンB』の特許を発見し、
報告することが大事になります。
以上、侵害調査の方法を簡単に紹介させていただきました。
是非、ご参考になさってくださいね!